企業における危機管理とは?多くの企業が注目のBCP策定を解説します

防災

企業におけるリスクが多様化しています。

それと同時に、リスクを回避したり、未然に防ぐ方法も多く存在しています。

このBCP策定の目的は、自社にとって望ましくない事態が生じた際、被害を最小限に抑えつつ、最も重要なビジネスを素早く復旧させることで、損害の発生を最小限に留めることです。

非常事態に強い企業の経営手法として、今後ますます注目度が増すと予想されるBCP。

自社を守るためにも、ぜひ一日でも早い取り掛かりをおすすめします。

BCPとは?

BCP(Business Continuity Planning)とは、日本語でいう、事業継続計画のことで、災害等の緊急事態が発生した時に、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や普及を図るための計画です。

近年増える自然災害や大規模な事故災害への対策として企業は策定をしていますが、その他の脅威として、業務を停止させる要因である、材料や部品の供給停止、システム機器の障害、情報通信の途絶なども含まれています。

このBCPですが、海外を発祥地として、2001年のアメリカ同時多発テロから日本でも徐々に浸透しているという背景があります。

その後、中小企業庁が2005年頃からこのBCPを推進し始めました。

実際には、自然災害や大事故が起きた際の、非常時対応マニュアルに基づき、行動してくことになります。

このマニュアルには、災害直後の人命救助や安否確認、停止した事業を代替設備で仮復旧させる手順、それらを実施するために必要な連絡先一覧リストや業務マニュアルなどを非常時用の資料としてまとめておくことが必要です。

しかしながら、このマニュアルは、準備しておくだけでは役に立たない恐れがあります。

平時より、訓練や演習、内容のブラッシュアップ繰り返し、従業員にスキルを付けてもらったり、事前の準備として抜け落ちている項目がないか、確認をしておくことでBCPの策定が企業に生きてくると言えます。

BCPと防災対策の違い

近年、このBCP策定というワードを耳にするようになりました。

以前は、企業として行う災害への対策として防災対策というものがありました。

この2つのワードも実際は内容が全く異なり、企業としてもその運用については従業員に対しても伝えておく必要があります。

ここでは、この2つのワードの違いを紹介します。まず、BCPと防災対策の大きな違いは、何を目的にするかどうかです。

BCPが最優先するのは、事業の早期復旧であるのに対し、防災対策は、従業員の命であったり、建物、機材、情報などのモノを守ることにあります。

防災対策では、前提としては、主に自社の中にある経営資材を災害から守ることになると思います。

BCPが守る事業については、社内の経営資材だけでなく、取引先やインフラなど、社外のものも不可欠となります。

具体的には、仕入先や取引先、外注サービスや流通網、電気や水道などライフラインになりますが、これらは守ることは困難ですので、代替や再調達という計画を取り入れることが必要となります。

社内に有るモノについても同様で、事業所内に事業に関係するモノ、関係しないモノが存在する場合がありますが、その際には、BCPの対象となるモノを優先的に守ることになります。また、想定するリスクについても大きく異なる点があります。

BCPでは、防災対策と異なり、対象となる災害を特定せず、想定外をも含む、不特定のリスクに備える必要があります。

自然災害だけでなく、テロなどによる人為的な事故、重要な取引先の倒産、自社を原因とする不祥事など、想定外となる出来事も含めた、ありとあらゆるリスクに備える必要があります。

仮に対象となる事業が複数の事業所で行われていた場合、そこでの防災が失敗した際の計画をも必要になります。

BCP策定は義務か?

結論から言いますと、企業がBCPの策定をしなければいけないという法律や条例は今現在ありません。

しかしながら、近年、企業側は従業員に対し、安全配慮義務があり、それに違反すると賠償金の支払いを命じられるという事例もあることから、BCPの策定は望ましいと言えるでしょう。

策定義務はないとしても、BCPを取り巻く法律と条例について解説をしていきます。

安全配慮義務

労働契約法に、企業や事業者は、従業員を使用する際に、安全を確保するための「安全配慮義務を負っている」とされています。

これは、店舗や工場における、労働災害を防止するという事例はわかりやすい内容と言えますが、その他に、就業時間中に事業所内で、自然災害に遭遇した場合でも防災対策やBCPの策定により、従業員を守る義務があるとされています。

また、安全配慮義務は、雇用契約内容の種類によって区別されるものではありません。

正社員だけではなく、パートやアルバイトにも同じように適用することになっています。

では、実際に安全配慮義務違反に問われるケースはどのような場合でしょうか。

一つの事例として、地震の際、オフィスや工場の地震対策が不完全で、転倒した什器に従業員が押しつぶされて死傷してしまったケース。

従業員に北区の指示を出したところ、道中で二次災害に巻き込まれてしまったケース。
などが挙げられます。

では、このような場合、どうしたら安全配慮義務違反として問われないのでしょうか。

基本的は、BCP策定や防災対策の実施が必要となります。

最新のハザードマップや、行政被害想定に基づいた、耐震補強、転倒防止策、防災マニュアルの作成を行い、さらに、従業員に対する訓練の実施を行い、教育と周知を徹底することが求められます。

先ほどの、帰宅時の二次災害については、「自発的に帰宅します」との念書を取るなどの方法もあります。

債務不履行

先程ご紹介した、安全配慮義務の他、災害時には取引先などへの契約違反や債務不履行による損害賠償も考えられます。

自然災害が起こり、取引先への納品期限に製造が間に合わず、契約違反となるようなケースです。

このようなケースにおいても、BCPや防災対策をしっかりとしており、自社に不可抗力がなかったと証明できる場合であれば、問題ありませんが、BCPの策定がなかったり、対策などが明らかに不足している場合には、損害賠償のリスクが高くなる可能性があります。

このような不可抗力による債務不履行のリスクを回避するためには、BCPの策定は前提になりますが、取引先と契約を結ぶ際に、「不可抗力免責条項」を追加しておくという方法があります。

天変地異、戦争、テロなど、自社の責めに帰することができない事由による契約遅滞は責任を負わないというニュアンスのものです。

このように、BCP策定の策定は義務ではありませんが、導入をする企業がどんどん増えていくことで、もし、BCPを策定していない企業が被災して被害を出した場合は、

「BCPがきちんとあれば、被害が生じてなかった可能性がある」と、企業に対する風当たりは強くなっていくことが考えられます。

東京都においては、2013年に施行された「東京都帰宅困難者対策条例」において、企業に対しては、防災対策、防災備蓄、安否確認体制の構築を努力義務として求めています。

企業に留まらず、自治体を上げてこのような条例を策定している現状からも、自主的にBCP策定を始めて行くことをお勧めします。

BCP策定が必要な理由

BCP策定には、手間とコストがかかります。そういう特徴から、策定の取り掛かりを後回しにするとう企業が多いようです。

しかしながら、企業を取り巻く環境の変化により、BCP策定が必要になってきています。その理由をいくつか紹介します。

一つ目は、企業が抱えるリスクが増えていることです。

1995年の阪神・淡路大震災以降、東日本大震災をはじめとする巨大地震の発生が増えつつあります。

また、温暖化や異常気象により、台風の多発化、大型化、それに伴う大規模水害が起こる可能性も高まっていると言えます。

その他にもリスクという点では自然災害以外のリスクも増えつつあります。

テロという新しい脅威、インターネットの普及により、企業の不祥事やクレームが瞬時に世の中に広まるという脅威など、これまでには想定できなかったリスクが増えており、それは今後も続いていきます。

もう一つに、外部からの圧力が強くなっていることも理由としてあげられます。

このBCP策定は、まず大企業から行われてきました。

現状では、この段階がひと段落して、今ではBCPの運用と見直しを行うという段階に来ているようです。

ですので、新規にBCPの策定を行うのは、中小企業が中心になっていくと予想されます。

もし、親会社となる大企業がBCPを導入している場合は、その子会社、系列会社へのBCP策定の要請は強くなってくると考えられます。

その他、考えられる理由としては、ISO規格としてシリーズ化されため、企業への認知度が高まる点です。

これまでは、BCPは自社で独自に策定をしていましたが、実際にISO22301としてシリーズ化されたため他のISO規格である、環境マネジメントシステムや品質管理マネジメントシステムのように、認知が高まっていくことでしょう。

BCP策定の方法

BCP策定の方法は、大きく分けて2通りあります。自社独自で策定をしていくか、ISOなどの国際認証を取るかです。

それぞれについて、紹介していきます。

自社独自で作成する

BCP策定には、時間と労力がかかります。

そのため、一番てっとり早く策定をするには行政や商工会などが配布しているBCPのテンプレートを用いることです。

外部からの要請で、急いで作成する必要がある、などの場合に有効です。

最もよく使われるテンプレートは、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」のようですので、チェックしてみるといいでしょう。

BCPは策定よりきちんと運用することが大事です。正しく本質や内容を理解しながら策定をしていくのであれば、書籍やガイドラインを参考にしながら策定することができます

しかし、調べながら、自社にどう落とし込むか考えながら策定するには時間がかかることがネックとなります。

そのような時には、お金を払って、専門のコンサルタントにお願いするという方法もあります。

間違いのないBCPを策定できますし、何よりスピーディに策定できますので、実際に運用できるまでの時間がかからない点がメリットです。

運用は自社で行うため、コンサルタントに丸投げするのではなく、BCPの担当者が窓口になって策定してくことが大切です

国際基準で作成する

2012年に、事業継続マネジメントがISO化され、「ISO22301:2012」が発行されました。

正式名称は、「社会セキュリティー事業継続マネジメントシステム」となります。

また、英国規格協会(BSI)が発行している、事業継続に関する英国の国家規格があります。

BCPがISO化される前は、この規格の日本語訳を参考にBCPを策定する企業が多くあったようです。

BCPの内容

実際に策定する場合、どのような内容にすべきかを簡単にご紹介します。

BCPを構成する要素は様々で、かなり多くの資料が必要になります。

大きく分けると、非常時に用いるための資料とBCPを運用するための資料に分けられます

それぞれを解説していきましょう。

非常時対応マニュアル

BCPの資料として欠かせないのが、非常時対応マニュアルです。

その内容は災害等が起きた際の初動対応をまとめたものになります。

具体的には、人命救助、安否確認、情報収集、被害状況の確認、対策本部設置などです。

初動対応を、非常時対応マニュアルでまかなったら、次は、仮復旧マニュアルが必要です。

災害発生後、目の前の混乱を収集させた次の段階の手順と、業務の仮復旧をまとめたものです。

具体的には、非常事対応マニュアル、仮復旧マニュアルの2つを、実際に非常時に用いるためには、関連資料が必要になります。

この資料については、変更しうる可能性があるので、運用しながら見直しが不可欠です。

安否確認や取引先への緊急連絡先一覧、水や食料を配布するための備蓄品リスト、バックアップ設備を可動するための取り扱い説明書、これらは定期的に内容を確認し、最新の状態にしておく必要があります。

最後に、これらのマニュアルは、緊急時に取り出せるようにしておく必要があります。

非常時に停電等で、PCやIT機器が使えないケースも起こりうるので、前もって印刷して複数保管しておくといいでしょう。

運用の資料

BCPは、実際に非常時に機能させなくては意味がありません。

そのため、平時から訓練や演習が必要となりますが、その際、どのような頻度で、何を実施していくか、そして不備の洗い出しや、改善などくり返し行われていくものですので、資料として管理する必要があります。

消火訓練や避難訓練はもちろんですが、代替用設備の動作確認訓練、BCPの机上演習、シュミレーション演習など、さまざまな計画が必要です。

まとめ

企業における危機管理として、BCP策定について紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか?

企業を取り巻く環境が変化し、それに伴い、企業が負う責任も幅広くなる現代、このBCP策定は企業として必須のアイテムになり得そうです。

実際は、いかに自社で運用するかが重要ですので、まずはBCPを理解していくことから始めなければいけません。

万が一の際に、自社を守る事ができるようにぜひともこの機会にチェックしてみることをお勧めします。

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昨今、頻繁に起こる自然災害による被害にまつわる問題を、専門的知識を持って適切な調査をする業務に従事する者(民間で活躍する自然災害家屋コンサルタント)としての位置づけを目的としております。 不動産会社、建築会社や工務店に勤務している方が多く取得しており、ご自身の業務に調査士の知識を役立てています。
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