日本で発生した豪雨災害で、記憶に新しいのは、平成30年度7月豪雨災害でしょう。
台風7号と梅雨前線などの影響で、全国的に広い範囲で記録された集中豪雨です。
この豪雨災害に限らず、実は近年さまざまな地域で豪雨災害は発生し、甚大な被害を出しています。
この豪雨災害の発生メカニズムや、過去の大きな災害、そして豪雨による土砂災害の発生メカニズムを知っていただき、それらに備えるための知識を解説していきます。
集中豪雨と局地的大雨
豪雨災害というと、集中豪雨と局地的大雨の2つがあります。
それぞれの降り方の特徴、そして発生原因について解説をします。
まず、気象庁では、雨の強さと、降り方の目安として、1時間あたりの降雨量ごとに、雨の強さや、人の感じ方、影響、災害発生状況などをまとめていますが、実は、集中豪雨と局地的大雨の区別は、これらでは行っていません。
しかし、気象庁は両者を区別していますので、その定義の違いをご紹介します。
集中豪雨
集中豪雨は、「全線や低気圧などの影響や雨を降らせやすい地形の効果により、積乱雲が同じ場所で次々と発生、発達を繰り返し、激しい雨が数時間に渡って降り続き、狭い地域に数百mmの総雨量となる」と説明されます。
局地的大雨
局地的大雨は、「単独の積乱雲が発達することによって起きるもので、一時的に雨が強まり、局地的に数十mm程度の総雨量となる」と説明されます。
集中豪雨と局地的大雨の違い
上記の定義を読んでいただくとわかるとおり、集中豪雨も局地的大雨も、比較的短時間にまとまって降る強い雨ではありますが、積乱雲の発生や発達の違いにより区別をされています。
集中豪雨が数時間降り続く雨に対し、局地的大雨は一時的に強まる雨、という違いがある。
その結果、大雨の継続時間が長い集中豪雨の方が、結果的に総雨量が多くなります。
ちなみに、「ゲリラ豪雨」というのは、集中豪雨と混同されがちだが、気象用語ではなく、マスコミが使いだした用語で、定格な定義はありません。
豪雨発生のメカニズム
集中豪雨や局地的大雨の発生原因は、ずばり、台風の発生原因と同じ「積乱雲」です。
この積乱雲の発達には、上昇気流というものが欠かせません。上昇気流の発生状況は、主に2つあります。
ひとつは、暖気と寒気がぶつかる時です。
冷たい空気と暖かい空気が接する境界を「前線」と呼びますが、「前線」では、冷たい空気が暖かい空気の下に潜り込もうとして、暖かい空気が押し上げられて、上昇気流となります。
もうひとつは、大気の状態が不安定な時です。
空気を上空に押し上げる上昇気流は、太陽熱によって温められた地表面の空気が軽くなり、上昇をはじめることで発生します。
そして、上昇気流は、「地表面付近に暖かく湿った空気が流入した時」「上空へ冷たい空気が流入した時」にさらに強まっていきますが、このような気象状況を、「大気の状況が不安定」と呼び、積乱雲が発達しやすくなります。
都市部における豪雨災害
全国各地の都市部で、豪雨が発生しています。
積乱雲の発生が、豪雨災害を引き起こしていることは都市部でも山間部でも同じですが、その発生には、都市ならではの原因が潜んでいます。
都市部ならではの豪雨災害について、解説していきましょう。
都市型水害
梅雨の時期から秋にかけて、河川が氾濫して、地下に水が流れ込むなど、都市部ならではの水害の危険があります。
「都市型水害」とは、雨水の急増に、都市の排水処理能力が間に合わず、結果として、低地での氾濫被害が増大し、道路や鉄道の冠水、交通機能の遮断、繁華街などでの浸水被害が相次いで起きることをいいます。
これは、都市開発が進み、地表面がアスファルト化されるにつれ、地表に雨水などが、吸収されにくくなってきたことが大きな原因です。
また、道路整備にともなって側溝が作られたり、住宅に雨どいが設置されたことで、雨水が地表に到達する時間が、飛躍的に短縮されて、結果的に、地面が雨水を吸収するよりも、大量の雨が地表に流れてしまうことも主な原因となっています。
ヒートアイランド現象
また、豪雨の発生の原因となる、積乱雲の発生においても、都市部ならではの構造的特徴があります。
そのひとつが、「ヒートアイランド現象」です。
ヒートアイランド現象とは、都市部とその郊外との気温差を比べた場合、都市部に近いほど、平均気温が高くなる現象のことです。
都市部では、人口が集中しているため、工場や事業所、住宅などから排出されるいわゆる「人口排熱」の増大により、気温が上昇しています。
また、コンクリート建造物や、アスファルトでできた道路など、都市部ならではの構造的特徴により、太陽からの反射熱や路面の放熱によって、さらに高温化が引き起こされます。
これらの結果、発生した暖かく湿った空気が、上昇気流で上空に押し上げられ、積乱雲が発生し、豪雨が降ります。
高層ビル
もうひとつの構造的特徴として、高層ビル群があります。
地表付近を吹く風は、このビル群にぶつかると、上昇する風の流れが強まるなどして、上昇気流となります。
そして、その風下に大雨を降らせる雲を発生させる可能性があるといいます。
なかでも、練馬区や板橋区などは、このメカニズムによって、大雨が発生する可能性があるそうですが、その仕組みはまだ十分に解明されていないとのことです。
日本で発生した主な都市型豪雨
例年、梅雨や台風など、大雨の洗礼を受けている日本ですが、洪水や土砂災害などの被害も多く起こっています。
都市部における局地的な豪雨により、新しいタイプの水害も発生しているので、過去の豪雨災害から、その驚異を知っておくことも大切です。
練馬豪雨
1999年7月21日15時から16時にかけ、練馬区を中心に、局地的大雨が東京都内を襲いました。
練馬の雨量計は、16時13分までの1時間に、131mmという激しい豪雨を記録しました。
この豪雨の最も大きな特徴は、降水範囲の狭さです。
これだけ激しい雨が降ったにも関わらず、アメダスが雨量を観測したのは、練馬区東南部を中心にした地域の他には、埼玉県と茨木県のほんの一部だけです。
この大雨により、練馬区内だけでも、床上浸水が200棟以上に達しました。
また、新宿区落合では、地下室が浸水して、男性一人が水死するという悲惨な事故が発生しました。
大雨の落雷の影響で、JR線の運休など、交通機関にも大きな影響が出ました。
杉並豪雨
2005年9月4日の昼過ぎから、5日、明け方にかけて、東京都杉並区を中心に大雨が降りました。
この豪雨では、東京都の新宿区、練馬区、北区、世田谷区、狛江市、埼玉県の川口市などで、1時間雨量が100mm以上を記録しました。
1999年の練馬豪雨より長く、3から4時間も降り続き、杉並区の下井草では総雨量263mm、久我山で240mm、練馬区の石神井で242mmを観測。
これによって、中野、杉並、世田谷区を中心に、床上、床下浸水などの被害が発生しました。
土砂災害の発生状況
そもそも日本は、国土の7割が山地、丘陵地で、台風や大雨、地震なども多いので、土砂災害が発生しやすい土地になっています。
2005年から2012年までの土砂災害発生件数で見ると、年間の発生件数が、全国で約1000件にもなっています。
土砂災害発生の仕組み
土砂災害の多くが発生するのは、何日にもわたる長雨や、集中豪雨または局地的大雨といった、急な強い雨が降る時です。
土砂災害は主に3つの仕組みがあり、それぞれ解説していきます。
土石流
土石流は、長雨や集中豪雨で、山腹が崩れることにより、大量の土砂や石礫の一部が水と一緒に流されていきます。その速度は、時速20から40kmにもなります。
地すべり
雨や雪解けで、地下水位が、上昇することなどにより、粘土など滑りやすい地層を境に上の地面の一部もしくは全部がそっくり動きます。
その際、土砂が川をせき止めることがありますがこれが決壊すると、一気に土砂等が流れ、土石流が起こることもあります。
がけ崩れ
大雨で、地面に水がしみ込んだり、地震の影響で土の抵抗力が弱まり、急激に斜面が崩れ落ちます。
土砂災害への備え
日頃より、土砂災害へ備えるため、その危険性のある箇所は、「土砂災害危険箇所」「土砂災害警戒区域等」として公表されています。
「土砂災害危険箇所」については、全国約52万箇所の危険箇所があるといいます。
「土砂災害警戒区域等」は、土砂災害防止法に基づき、基礎調査を実施した上で、土砂災害の危険性のある箇所として指定されているものです。
土砂災害警戒区域に対しては、警戒避難体制の整備などが、土砂災害特別区域に対しては、特定開発行為に対する許可制や、建築物の構造規制等が行われます。
私たちが日常できる備えとしては、自分の住んでいる場所が、土砂災害危険箇所なのかどうか、国土交通省砂防部のホームページで確認したり、土砂災害の仕組みについて知っておくことが、とても重要です。
まとめ
豪雨による自然災害を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
日頃から私たちにできる備えは、たくさんあります。
まずは、何もない時から、防災意識を高め、いざという時に、自分で動けるような知識をつけることから始めて行きましょう。
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