屋根は雨・風・陽射しなどから、私たちの生活を守る大切な役割があります。
その屋根が破損すると雨風が家屋内に侵入し、人々の生活が脅かされます。自然災害調査士は屋根の構造や種類を知っておくことで、どのように修繕・メンテンナスした方がいいかを判断しています。
まずは屋根の形状について解説します
屋根には様々な形がありますが、大きく分類すると代表的な5種類に分かれます。まずは、この屋根の形状について理解しましょう。
切妻屋根(きりずまやね)
棟(むね)を頂点としてその両側に2つの斜面がある山形の屋根です。別名、真屋(まや)。
寄棟屋根(よせむねやね)
勾配のある4枚の屋根面で作られた屋根です。現代的な屋根であり、和洋とわず都市型住宅にも使われています。
陸屋根(りくやね or ろくやね)
屋根面がほぼ水辺の屋根です。雨水をドレーン(管)で流すために、ゆるやかな勾配があります。
片流れ屋根(かたながれやね)
屋根面が棟から、屋根の吹き下ろした先である軒(のき)まで一方的に斜面となっている屋根です。
方形屋根(ほうぎょうやね)
上から見ると正方形になっている屋根です。
屋根各部所の名称について
棟
建物の頂上、水平になっている部分です。棟のカバーを棟包(むねづつみ)、または棟板金(むねばんきん)といいます。
降棟(くだりむね or さがりむね)
棟から屋根の勾配に沿って軒先に造った棟が降棟です。
破風(はふ)
妻面に出来る三角形の部分が破風です。屋根の妻側の造形のことであり、切妻造りや入母屋造の屋根の妻側には必然的にあり、妻壁や破風板など妻飾りを含みます。
けらば
屋根の端が下がっている側の端が、けらばです。
谷
屋根と屋根の接合部にできた谷部分を谷と呼びます。
平(ひら)側
建物の側面のうち、幅が広い方が平側といいます。
妻(つま)側
建物の側面のうち、狭い方が妻側といいます。
破風板
一般的な家屋でからばについていつ板を破風板と呼んでいます。
屋根を構成する構造材について
垂木
軒から軒先に向かって使う野地板を受ける箇所です。
棟木、母屋(もや)、軒桁(のきげた)
屋根を支え垂木を受ける箇所です。
小屋束(こやづか)
棟木、母屋を受ける柱です。
小屋梁(こやばり)
小屋束を受ける箇所です。
瓦屋根を構成する構造材について
棟で使われる瓦
鬼瓦、冠瓦(かんむりがわら)、のし瓦、巴瓦(ともえがわら)、漆喰(しっくい)
主要部で使われる瓦
桟瓦(さんがわら)、けらば瓦
軒先で使われる瓦
軒先瓦
屋根の下地について
屋根の下地として古くから杉皮が使われていましたが、現在はアスファルトルーフィングが主流となりました。
化粧屋根の構造
化粧屋根は化粧スレートと棟包み板、棟押さえ板金、けらば水切りなどの金属製品で構成されます。下地はアスファルトルーフィングと野地板です。
瓦棒葺の構造
瓦棒葺きの構成は、ふき板鋼板(ガルバニウム・トタン)、棟包み板、瓦棒(キャップ)、軒先は唐草になります。アスファルトルーフィングを敷いた上に心木をつけ葺いていきます。現在は心木がなく、鋼板で構成された心木なし瓦棒葺などが家屋に使われています。
屋根の部材の基礎知識
屋根には様々な種類の屋根材が使われていますが、その部材ごとに自然災害によってもたらされる被害傾向は異なります。
自然災害の専門家としてそれらを判断するために、家屋で使われている個々の部材とその特徴について学んでおく必要があります。
部材の特徴を押さえる上でポイントとなる「耐用年数」「重さ」「材質」「材質特徴」についての解説をした上で個々の部材の解説に入っていきます。
耐用年数について
耐用年数は部材に起こる経年劣化を判断するひとつの材料となります。
耐用年数はその部材の機能が維持される期間の平均値であり、この平均値を越えると部材は経年劣化による機能低下が顕著に現れやすくなります。経年劣化として表れる症状は部材によって異なります。
例えば硬化する、経年劣化のため乗ったとき簡単に割れてしまう、塗膜面がなくなり砂状になってしまうといった症状が経年劣化によって起こります。
家屋を調査した際に破損部分が経年劣化によるものなのか、自然災害によるものなのか、という違いを見極めるためには、部材が耐用年数を越えて経年劣化が顕著になった際に、どのような状態になる傾向があるのかという情報をあらかじめ知っている必要があります。
場合によっては経年劣化か自然災害かという2択ではなく、経年劣化に加えて自然災害の与えた被害により破損等の被害が発生していることも多々あります。
こういった判断をする際にも部材の耐用年数と表れる経年劣化による機能低下の状態を押さえておく必要があります。
重さについて
地球の重力の影響により、時間の経過とともに家屋が破損することがあります。建物の強度は基礎、構造材によって決まります。その構造を守っているのが、外壁や屋根です。
屋根や壁が破損すれば、構造材にも被害が及びます。現在多種多様の建材が日本にはあります。その中の不滅の定番は瓦と言われています。
家屋にとって最上部に位置する屋根材の重さは、家屋が地球から受ける重力に影響します。そのため、屋根材としてどの部材を使うかの選択が、時間の経過とともに家屋に見られる地球の重力による経年劣化の違いに現れます。
屋根材は家屋の屋根部に重石を乗せるようなイメージです。屋根材の重さが増せば増すほど構造材は経年劣化が早まるというデメリットがあります。
逆に重い屋根材は台風や突風などによって飛ばされないというメリットも持ちます。現在では、屋根を軽くすることで柱にかかっている負担を減らそうというリフォームが主流になりつつあります。
家屋を調査する際に破損原因を特定する1つの材料として、屋根材ごとの重さがもたらすメリット・デメリットを押さえておく必要があります。
屋根材として使われる部材としては主に瓦系、スレート系、金属系がありますが、それぞれの重さは実際瓦の重さは45〜55kg/㎡、スレートは20〜25kg/㎡、金属系は6〜18kg/㎡とかなりの差があります。
単純に重さだけを比較すれば瓦が重く、家屋に対して重力の影響は大きくなります。長期において瓦がその重みから構造材にもたらすものは影響がないわけではありません。
ですが、構造において瓦仕様の家屋は瓦の重さに見合うだけの構造となっていますので、部材の重さが軽い方が家屋への負担が少なく経年劣化も起こりづらいという判断は早計です。
現状部材ごとのメリット・デメリットを考えた上で、主流派となっているのがスレート系です。
スレート系の部材は軽いですし長持ちします。実際長持ちするかという点で考えると瓦のほうが長持ちです。ですが新築の家の家主が望まれるのは洋風的で衣装的なスレートが好まれます。
工事側からしても瓦よりスレートの方が、工期が短いというメリットもあります。瓦は長持ちするというメリットはあっても、手間がかかり単価も高くなります。
材質について
家屋を調査する上で材質についてその特徴を知ることは不可欠です。自然災害や経年劣化の被害の受け方についての手がかりとなりますし、家主に対して修繕の助言をする上でも知っておく必要があります。
家主は屋根材の選定も、建物のデザインと価格で決めがちです。家主の希望もありますが、建築の専門家から家主へのアドバイスをする際には、屋根材の特色、10年先のメンテナンスも考慮にいれてのアドバイスと選定が必要とされています。
以下、瓦、スレート、ガルバリウム、セメント系の材質ごとの特徴を重さや耐用年数も含めて表にまとめました。記載された数値は目安であり、メーカー等により差が出ますので参考値として捉えておいてください。
この表で各材質を比較して、相対的に部材を理解する際の手助けとしてください。
瓦 | スレート | ガルバニウム | セメント系 | |
価格 | 8,000〜10,000/㎡ | 5,000〜7,000/㎡ | 6,000〜8,000/㎡ | 6,000〜8,000/㎡ |
重さ | 54kg/㎡ | 21kg/㎡ | 6kg/㎡ | 55kg/㎡ |
耐用年数 | 50年以上 | 20ー50年 | 50年以上 | 30ー40年 |
強度 | 強い | 割れやすい | へこみやすい | 強い |
屋根の主な被害内容
普段あまり見ることのない屋根ですが、屋根も自然災害による被害が出ているケースが多いです。
屋根が被害が受ける主な原因は、『強風・台風などの風』です。そして、最も被害を受けやすい屋根のタイプは瓦屋根です。屋根の材質によって異なりますが、下記のような被害を受けることがあります。
・症状1. ずれ
・症状2.割れ
・症状3.漆喰の破損
・症状4.飛来物による割れ、欠け、ずれ
・症状6.瓦を押さえている釘の浮き
このなかでも【症状1.瓦ずれ】は、意外と発生しているのに関わらず気づかれない方を多く見受けられます。
本来、瓦は適切に並ぶことで本来の機能を最大限に発揮することが出来るのですが、強風や台風などによって、瓦がずれたり、まくれたりすることがあるのです。
その結果、瓦は本来の機能を失ってしまいます。それでは次の項目で、材質ごとに解説していきます。
瓦
瓦は適切に並ぶことで本来の機能を発揮することができます。
ですが、台風や竜巻などの強風によりずれることで、その機能を失うこともありますが、雨だけでは被害が生じにくいという特徴があります。
局地的大雨や想定外の異常気象などによって、瓦が破損したり流れてしまったなどはまずありません。
瓦屋根の場合、屋根の頂上である「棟」に、冠瓦とよばれる箇所があります。
この箇所を漆喰で固定しているのですが、強風などの自然災害で、漆喰自体にヒビが入ったり、剥がれたりする可能性があります。
その他、強風などによる飛来物での瓦割れ、ひび、欠けなどの可能性や、地震や熱膨張などによる釘ずれ・浮きがあります。
すが漏り
国内の寒冷地ではない地域では時折突発的な大雪で「すが漏り」が発生するケースがあります。
屋根に積もった雪が外気によって冷やされて凍ります。その一方で、室内は暖房により気温が上昇することで、その熱が屋根に伝わり積もった雪が溶けます。
ですが、軒先では溶けないため、溶けて流れるはずだった水が行き先を失い、ルーフィングに入り込み、雨漏りとなる現象です。化粧スレート系でも同様の「すが漏り」が発生する場合があります。
平型化粧スレート
カラーベスト、コロニアルなどがスレートの代名詞となっていますが、それらはあくまで商品名で、化粧スレートと同じ分類になります。
化粧スレートは、突風、台風、竜巻などにより、高い風圧がかかることにより、欠け、割れ、ヒビ、まくれといった被害を受けます。また、同じく突風により棟包み板に圧力が加わり、釘が緩むことで釘抜けが発生胃することもあります。
しっかり施工してあれば上記のような被害があまり発生しませんが、長期メンテンナスを怠った場合には、下地材の劣化に伴いまくれなどが発生することがありますので、定期的なメンテナンスをお勧めします。
また、スレート材は表面に塗膜が塗られているため、紫外線に長時間さらされると劣化します。やがてスレート内部が露出し、砂状に劣化します。
トタン・ガルバニウム
金属系の屋根部材の場合、台風や竜巻などの風による影響は構造・材質上、あまり影響を受けません。それは、金属同士が継手により強固に結合されているからです。
ですが、強風により下地材の変形が発生した場合は、それに伴い機能障害を起こすこともあります。
雨風に強い一方、飛来物などにより表面塗装が傷ついたり、剥がれた場合は、その箇所に錆が発生し劣化の原因となります。また、雪が降る地域では、すが漏りが発生する可能性もあります。
金属系の屋根も被膜が命です。紫外線や雨などにより被膜が劣化した場合は経年劣化です。製品にもよりますが、10〜20年のサイクルでメンテンナスが必要です。
樹脂・塩ビ系
樹脂・塩ビ系は当初、柔軟性があり壊れにくいと考えられていましたが、長い年月とともに硬化が始まり、壊れやすくなる傾向があります。
また、他の屋根材と比べると強度が弱く、台風や竜巻などの突風による破損や、雹によって穴が空くといった被害が発生します。
雪、風、紫外線の外的要因により、科学的・物理的に弱く、変色・硬化・分解が他の屋根材より早いと言われ、経年劣化と判断されます。
藁葺き、茅葺き
台風や竜巻などの突風により、部材の一部が飛ばされるという風害が発生しやいのですが、防水能力は高く雨による直接被害はほとんどありません。
長期仕様することで屋根の厚みが少なくなり、大雨の被害に繋がる可能性がありますので、定期的に修繕が必要です。ですが修理できる職人が減っているのが現実です。
材料の茅(かや)は水分が多いので、乾燥させてものを利用します。また、防水性・耐久性を高めるため燻して使用します。耐用年数は10〜15年程度と言われ、都度悪くなった箇所を吹き替えします。
なお、あまりご存じない方も多いのですが、【風による家屋の被害】は、実は火災保険の補償の範囲になります。ご自宅の屋根が風の被害を受けていないか、ご確認をお勧めします。
屋根の吹き替え
今までの記事では家屋調査に必要な屋根や各部材などについて、紹介させていただきました。では、自然災害調査士による家屋調査で被害を発見した際に、一番気になるのは修繕にかかわる費用ではないでしょうか?
破損状況や規模によっても金額は異なります規模おおよその金額を紹介します。
屋根の全面を新しい屋根材に全て葺き替える「全面葺き替え」と、被害のある箇所だけを葺き替える「部分葺き替え」があります。
工事方法は2種類あり、1つが屋根材を全て撤去して新しい屋根材の設置を行う方法と、もう1つは屋根材はそのままで上から新しい屋根材を設置するカバー工法です。
化粧スレートなどの屋根には適しているので、近年はカバー工法が多く用いられています。
カバー工法
カバー工法は、古い屋根材を撤去する必要がないので、安いというメリットがあります。
特に化粧スレートの中でもアスベスト(石綿)を含んだんものであれば、その撤去と処理が特殊なので、費用が高額となります。
ですが、これから発生するかもしれない地震や台風などの自然災害でアスベストを含む屋根材が破損すると、人体に害を及ぼす可能性もありますので、お勧めしない工務店などもあります。
また、二重の屋根材が設置されることになるので、屋根自体が重くなり地震の影響を受けやすくなると言われています。
どちらにしても、元の屋根材・被害箇所と規模などから判断し、どの工法で修繕をすべきなのかを決めるべきだと思われます。
屋根葺き替えの金額
◆屋根全面葺替修理費用:およそ100万〜300万円
◆屋根一部葺替修理費用:およそ30万〜270万円
葺き替えのタイミング
屋根の葺き替え時期の目安ですが、自然災害による被害状況によっても異なりますが、化粧スレートは20〜25年、日本瓦は50年以上、トタン屋根は6〜10年、ガルバニウム鋼板は50年以上と言われています。
普段の生活では屋根を見る機会はないので、実際にそのくらいの自然災害の被害を受けているか詳細はわかりませんので、まずは自然災害調査士による家屋調査をおすすめします。
屋根の塗装
化粧スレート系の屋根材は築10年以上経過すると、雨水などが原因で藻やカビが付着したり、金属部分が錆びたり、紫外線によって色あせしてくる可能性があります。
藻やカビは高圧洗浄で洗い流すという方法がありますが、色あせは塗膜が剥離してしまうと、洗浄だけでは対応しきれません。こうなると塗装も必要になります。
屋根の塗装は、家屋の見た目を良くするものでもありますが、様々なメリットがあります。
屋根塗装のメリット
見た目だけではなく、屋根としての機能を長持ちさせたり、屋根そのものを保護したりします。
①防水、防錆の効果が高まる
雨漏りのリスクを軽減し、金属部分の腐食などを防ぎます。
②遮熱性、断熱性が高まる
夏場は室内の上昇を抑え、冬場は室温の加工を抑えます。
③屋根材の保護
屋根材を長持ちさせ、屋根葺替工事を延期できます。
屋根塗装のデメリット
塗装を依頼する業者の施工不良により、雨漏りが発生する場合があります。
これは塗り過ぎによって、雨水が通るべきスレートとスレートの隙間を塞いでしまい屋根の内側に水が貯まってしまったり、スレートの隙間が不完全ですと、毛細管現象により雨水が内側に吸い上げられる可能性があります。
塗装の際に、屋根材の隙間が埋まってしまうため「縁切り」という作業を怠った可能性があります。
屋根塗装の金額
◆一般的な2階建住宅:30万〜60万円(塗装面積50〜80㎡、足場費用込)
規模や塗料の種類によっても金額が変動します。
塗装することにより、過ごしやすい生活となりますし、葺き替えよりも費用を抑えることが可能です。自然災害の被害の状況により塗装か葺き替えか異なりますが、まずは屋根の状況を確認しましょう。
棟板金の交換
棟は建物の頂上、水平になっている部分で、化粧スレートや金属屋根で用いいる棟は金属製であるため棟板金と呼ばれます。屋根の頂上で雨水の侵入を防ぎ、屋根材を固定する役割があります。
頂上にあるため風の影響を受けやすく、風害の被害に遭いやすい箇所です。また確認しずらい場所にあるため、浮き上がったり、飛んでしまったりしても気づかず、いつの間にか雨漏りしているということもあります。
棟板金交換の金額
◆棟板金の交換修理:30万~100万円
棟瓦の積み直し
棟瓦積み直しの金額
◆棟瓦の積み直し修理:50万〜150万円
スレートの交換
スレート交換の金額
◆スレート交換(1枚):1万~3万円
◆スレート修理(全体):25万~80万円
瓦の交換
瓦交換の金額
◆瓦交換(1枚):1万~3万円
◆瓦修理(全体):30万~100万円
漆喰の塗り直し
漆喰塗り直しの金額
◆漆喰の塗り直し:30万〜80万円
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